副腎疲労と運動
副腎疲労と運動の関係は複雑です。運動は副腎疲労を予防、回復する効果がある一方、 運動そのものは副腎疲労の原因となる副腎の酷使、コルチゾールの産出を促します。
そのため、過度な運動を続けると、副腎疲労を引き起こすこともあります。
ここでは副腎疲労と運動の関係、および、副腎疲労回復の運動について、紹介しています。
副腎疲労については、副腎疲労が疲労の原因をご参照下さい。
運動は強度に応じてコルチゾールを放出する
運動はその強度(有酸素運動では心拍数、筋力トレーニングでは重量を示す。個人の身体能力に依存。)と継続時間に応じて、 コルチゾールを放出します。理由は、運動そのものが、ストレスと同様に、HPA軸(視床下部-下垂体-副腎系)を刺激するためです。
1987年 内分泌系発達学のルガーAらの研究によると、
- アスリートのように高度に訓練された群
- 定期的な運動をする群
- 普段は座りがちな群
運動量が同じなら、運動能力に依存
この研究では、「運動強度とコルチゾールの上昇が比例した」としていますが、 運動強度は、普段運動している人の方が、 有酸素運動では心拍数の上昇が抑えられたり、 筋力トレーニングでは、高重量を扱えます。そのため、この研究では、「(運動強度によらず)絶対的運動量が同じ場合、より運動に慣れている群の方が、コルチゾールの上昇を抑えられた。」 と発表しています。
慢性的なオーバートレーニングは副腎疲労の原因に
一方、オーバートレーニングは副腎疲労の原因となります。毎日の激しい運動は、ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)の慢性的な分泌過多を促し、 その結果、副腎の肥大とコルチゾールの分泌過多をもたらします。
そのため、オーバートレーニング症候群と言われる人々は、 慢性的にコルチゾールの分泌亢進状態(副腎の酷使)になっているとされています。
オーバートレーニングとは、 運動による負荷に対して、 体力の回復が追いつかないような不均衡な状態を意味し、 1度や2度のオーバートレーニングでは、副腎疲労の原因とはならないものの、 この不均衡が数ヶ月続くと、副腎疲労や慢性疲労を引き起こします。
副腎疲労時は運動はダメ?
上記を整理すると、以下のようになります。
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そのため、 既に副腎疲労を患っている場合には、運動はコルチゾールレベルを上昇させる(=副腎を働かせる)という意味で、 あまり良い方法とは言えなくなってしまいます。
一方、「アライド健康科学と実践」によると、 「個々の運動セッションはコルチゾール産生の一時的な増加を引き起こすものの、 定期的な運動は、コルチゾールレベルを低下するのに役立つ。」と発表しています。
また、ニューメキシコ大学の発表でも、 「30分の適度な運動セッションは、コルチゾールレベルを減らすのに役立つ可能性がある。」としています。
副腎疲労の運動の目的はストレス解消
運動そのものは、副腎を働かせ、コルチゾールを産出します。しかし、「運動が副腎疲労に効果がある」とされている理由は、 運動による「リラックス効果」、「ストレス解消効果」、「運動不耐症による症状悪化の予防」 によるものです。
「副腎疲労に運動が効果がある」とされている理由
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運動によるリラックスとストレス解消
運動は多幸感をもたらす「エンドルフィン」や「セロトニン」を放出し、リラックス状態を作ります。 また、ストレスとリラックスは「逆抑止の原理」により、共存することはできません。副腎疲労の直接の原因は、慢性的なストレスであることが多いため、 この直接の原因であるストレスを解消することで、 副腎を休ませ、平時のコルチゾールの分泌を減少させ、 副腎疲労の回復に寄与します。
運動不耐症による症状悪化の予防
副腎疲労患者は、その疲労症状から、エネルギーレベルが低く、 かつ、エネルギーレベルの低さが筋力の低下を引き起こし、 運動不耐症を引き起こします。運動不耐症による運動不足は、血流の悪化、不安症の増大、インスリン感受性の低下など、様々な症状を引き起こします。
これら副腎疲労による合併症を予防するのに、運動は効果を発揮します。
副腎疲労回復に効果的な運動
副腎疲労回復に効果的な運動とは
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運動は個人の症状、運動能力によって決められる
副腎疲労には、警告反応期、抵抗期、疲憊期と3つの段階があり、それぞれ疲労度や症状が異なります。 また、運動能力は個人に依存します。間違った運動は副腎疲労をより悪化させることから、 個々の症状、運動能力に応じた運動計画が必要となります。
間違った運動は副腎疲労を悪化させる
「運動」という概念は個人によって異なります。 そのため、人によってはジョギングや筋力トレーニングを想像するかもしれません。しかし、このような激しい運動は、副腎疲労の状態によっては、 より症状を悪化させてしまいます。
運動時間
副腎疲労と運動時間には諸説あり、未だ明確な答えは出ていません。ある文献では、「60分以上の運動は、どのような種類の運動であれ、 コルチゾールの大幅な上昇をもたらす」としているものの、 他の文献では、「副腎疲労時の運動時間は30分以内にしなければならない」としている場合もあります。
副腎疲労時の運動時間は、個人の症状や体調によってことなるものの、 総合すると、30~50分程度が良いようです。
副腎疲労回復の具体的な運動例
副腎疲労回復の具体的な運動例
疲憊期(重度) | 呼吸法、マッサージ |
疲憊期 | ストレッチ、ヨガ、太極拳など軽い運動 |
抵抗期 | ウォーキングや軽い有酸素運動 |
予防 | 激しい運動(オーバートレーニング)以外 |
疲憊期
疲憊期は副腎の機能が低下しているため、運動によって無理にコルチゾールレベルを上げることは危険です。そのため、筋力トレーニングや激しい有酸素運動を避け、 リラックスを促し、副腎を休ませる(コルチゾールを上昇させない)運動が効果的です。
医師によっては、運動ではなく、リラックスに重点を置いた呼吸法やマッサージなどから始めることを推奨されるほどです。
マイアミ大学の研究によると、マッサージ療法により、コルチゾールの減少(平均31%)、セロトニンやドーパミンの増加(平均28%)が観察された、と発表しています。
また、ストレッチやヨガ、太極拳など軽い運動も効果的です。 これら運動は副腎を休ませながら、セロトニンの増加、筋力の低下を防ぎます。
抵抗期
特に緑の多い場所でのウォーキングは、よりリラックス効果が高まります。
イギリスで行われた研究において、 脳に脳波装置をつけて外出する実験を行ったところ、 公園や緑地のウォーキングは精神疲労を回復し、脳波は瞑想時に近いものになりました。 一方、自動車の行き交う道路や商業地区での散歩は、興奮やイライラの感情に近いものになったとしています。
また、有酸素運動後のマグネシウム補給も効果的です。 アメリカの医学ジャーナル「臨床化学および検査医学」によると、 「有酸素運動後のマグネシウム補給は、血清コルチゾール濃度を低下させる」、発表しています。
まずは医師に相談
副腎疲労の症状が出ている場合、 極度の疲労から運動そのものが非常に困難な場合があります。また、副腎疲労の症状として、筋肉がつっている場合や身体の痛みが出ている場合、 その他疾患を誘発することになるため、無理は禁物です。
運動を始める前に、 どのような運動から始めればよいか、 かかりつけの医師に相談することで、症状の悪化や合併症の誘発を予防できます。
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