甲状腺機能低下症が疲労の原因か判断する

疲労の原因~甲状腺機能低下症~

疲労の原因と回復~甲状腺機能低下症~
慢性的な疲労を訴える疾患の一つに甲状腺機能低下症があります。

甲状腺はしばしば「エネルギーを作り出す臓器」と呼ばれるように、 その機能が低下するとほとんどの人が疲労を訴えます。

しかし、疲労以外の症状も多く出るため、 それらが疲労の原因と考え、治療が遅れ長く症状に苦しむ場合も珍しくありません。

ここでは疲労の原因が甲状腺機能低下症かどうか判断できるよう、 甲状腺機能低下症の特徴について紹介しています。

甲状腺とその機能、ホルモンとは

甲状腺とその機能、ホルモンとは
甲状腺とは喉ぼとけ付近にある大きさ4cmほどの扇型に開いた臓器です。

甲状腺の主な機能は甲状腺ホルモンの分泌で、それはしばしば「エネルギーを作り出す臓器」と言われます。
甲状腺ホルモンの主な機能
  • 栄養素をエネルギーに変える
  • 基礎代謝を向上させる
  • 発育成長を促す、骨の育成を補助する
  • 他のホルモンを調整する
  • 体温を上げる
  • など

甲状腺が疾患により機能が低下してしまうと、甲状腺ホルモンの分泌量が低下するため、 上記の働きに支障をきたします。

中でも「栄養素をエネルギーに変えることができない」ということは、疲労や倦怠感と言った症状のほか、 脳、心臓をはじめ、エネルギーを必要とする全ての細胞、臓器に支障がでてしまいます。

この甲状腺の機能が低下し、甲状腺ホルモンの分泌量が低下する疾患を甲状腺機能低下症といいます。

甲状腺疾患の潜在患者数

日本内分泌学会が発表している「甲状腺機能異常を示す患者総数」によると、 甲状腺の自己抗体検査(Tg、TPO)が陽性の割合から、 「約2,385万人が潜在的な甲状腺疾患(殆どが橋本病?)を有することになる」と発表しています。

甲状腺の自己抗体検査(Tg、TPO)が陽性の割合(健康診断受診者)
  • 男性で14.4%(約7名に1人)
  • 女性で24.7%(約4名に1人)
  • 全体で21.7%(約5人に1人)
  • そのほとんどが橋本病?(甲状腺機能低下症の1つ)
    ※原文ママ 推測記号「?」あり

参考:
※:日本内分泌学会:「潜在性甲状腺機能低下症の実態調査」

ご注意:
甲状腺の自己抗体検査が陽性であることと、甲状腺疾患であることは完全にイコールではありません。
詳しくは甲状腺の病気(甲状腺機能低下症)は女性に多いをご参照下さい。

甲状腺機能低下症の症状

甲状腺ホルモンは栄養素をエネルギーに変える働きがあります。

そのため、甲状腺機能低下症になると、多くの臓器がエネルギーを使えないため、機能が低下し様々な症状が出ます。
全ての症状が出ることは稀なものの、多くの症状を併発します。

甲状腺機能低下症の主な症状
疲労感 気力、記憶 体温低下
  • 喉に違和感
    (触診)
  • 喉の腫れ
  • 疲労感
  • 倦怠感
  • 易疲労感
  • 動作緩慢
  • 傾眠
  • 嗜眠
  • 無気力
  • 記憶力低下
  • 集中力低下
  • 心拍数低下
  • 低体温
  • 寒がり
  • 発汗減少
  • 皮膚乾燥
腸、その他 女性 子供
  • 便秘
  • 体重増加
  • むくみ
  • 抜け毛、脱毛
  • 目の下のくま
  • 月経過多
  • 成績低下
  • 成長停止
    (身長、体重)

多くの患者が全身の疲労感、倦怠感により生活に支障をきたします。
また、女性では冷え性、寒がりのほか、 月経過多の症状が出たり(稀に停止)、 子供は脳の働きや成長が阻害されることから、 成績の低下や身長の停滞などが見られることがあります。

甲状腺の症状の詳細については、以下をご参照下さい。

原因

甲状腺機能低下症の原因は大きく6つに分けることができます。

甲状腺機能低下症の主な原因
  • 甲状腺炎(橋本病、亜急性甲状腺炎など)
  • 甲状腺摘出
  • ヨウ素(ヨード)欠乏、過剰摂取
  • 下垂体障害
  • 先天性

ヨウ素欠乏、過剰摂取

ヨウ素が不足すると甲状腺が腫れ、甲状腺の機能が低下します。
しかし、日本で通常の食生活を送っている限り、ヨウ素が不足することはほとんどありません。

厚生労働省によると、 成人の1日あたりのヨウ素の推奨摂取量は130μgですが、 日本人の平均実績摂取量は10倍以上の1,400μgです。

このヨウ素の過剰摂取は甲状腺機能亢進症(甲状腺ホルモンの異常分泌)だけでなく、 甲状腺機能低下症の発症にもつながります。

ヨウ素過多と甲状腺については、 ヨウ素の過剰摂取と甲状腺をご参照下さい。

最近は母体のヨウ素過剰摂取により、子供の甲状腺機能低下症、甲状腺機能亢進症を引き起こすことが多くなっています。

ヨウ素が多い食事(100gあたり)
  • 昆布・・・131,000~240,000μg
  • わかめ・・・1,900~7,790μg
  • ノリ・・・2,100~6,100μg

イソジン(うがい薬/ヨウ素が含まれる)やチラージンにもヨウ素が多く含まれます。

また、ヨウ素以外にもリチウム、インターフェロンなど、 甲状腺ホルモンの分泌に異常をきたす成分が含まれるものがあります。

これら以外にも甲状腺ホルモンに異常をきたす成分があるため、 薬を受領する場合はその旨を正しく報告する必要があります。

診察

甲状腺の診察
甲状腺機能低下症の検査は血液検査によって正確に判明します。
その理由は、甲状腺ホルモンが以下の経路をたどって放出されるためです。

甲状腺ホルモンの経路
  1. 脳(視床下部)がTRH(甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン)を分泌
  2. TRHを受けた下垂体がTSH(甲状腺刺激ホルモン)を分泌
  3. TSHを受けた甲状腺が甲状腺ホルモン(T3,T4)を分泌

そのため、途中経路であるTSHと実際に分泌されているかどうかを表すT3,T4の血中濃度を検査します。
ただし、T3、T4はほとんどタンパク質と結合した状態で血液中を流れているため、遊離型である(FT3、FT4)を利用します。

TSH、FT3、FT4の正常値(※参考)
検査値 正常値
TSH 0.34~4.3(5.0)μlU/ml
FT3(Free T3) 2.1~4.1pg/ml
FT4(Free T4) 0.82~1.7ng/ml
※検査機関によって正常値は異なるため、上記正常値は参考程度にとどめ、 必ず検査機関の値に従って下さい。

回復、治療

医師の指示に従い、薬(レボチロキシン、チラーヂンSなど)を飲めば、 体が不足している甲状腺ホルモンを補うことができるため、 ほとんどの症状が出なくなります。

また、甲状腺機能低下症は自然治癒することはありません。

「甲状腺機能低下症かも」と思ったら、専門医(内分泌科あるいは内科)やかかりつけの医師にご相談下さい。


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