乳酸は疲労物質?
激しい運動やストレスによって疲れを感じた時、 「身体に貯まった乳酸を素早く除去することが疲労回復につながる」、という通説があります。しかし、この通説は誤りです。
なぜ乳酸は疲労物質として、広く世に知られるようになったのでしょうか。 乳酸の本来の役割とは何でしょうか。
ここでは、 乳酸が疲労物質と誤解されてしまった理由、 乳酸の疲労に対する役割、 乳酸に関わる疲労回復商品に効果はあるのかなど、乳酸と疲労の関係について紹介しています。
なぜ乳酸は疲労物質として広まってしまったのか
21世紀現在、疲労に関わる研究者や医師などにとって、 乳酸は疲労物質ではない、というのは常識になっています。しかし、広く一般の人々には、 いまだ乳酸は疲労物質で、 疲労を回復するには乳酸を取り除かなければならない、と誤解されているふしがあります。
ノーベル賞受賞者が「乳酸=疲労物質」と提唱
乳酸が疲労物質であると提唱したのは、イギリスのノーベル賞受賞学者アーチボルドビビアン・ヒルです。彼とその研究者たちは、1929年に発表した論文において、 運動によって体内に乳酸が作られ、 それが蓄積することにより疲労につながるという理論を発表しました。
彼がノーベル賞受賞者であったため、 この理論は疑われることなく、 彼の生徒や学術者を始め多くの人々に指示され続けました。
乳酸に関する誤解
長く誤解され続けたため、非常に多くの「乳酸と疲労の関係に対する誤解」があります。- 乳酸は疲労物質である
- 乳酸は疲労の原因であり、素早く除去しなければならない
- 乳酸が体内にとどまると、疲労の回復を遅らせる
- 乳酸が多く作られると身体が酸性になる
- 酸性になった身体を中和するため、クエン酸などのアルカリ性食品を食べると疲労を回復できる
- 乳酸は血流を巡り、脳に疲労を知らせるシグナルである
乳酸本来の役割とは?疲労のメカニズム
現在では、疲労に関するメカニズム、 特に疲労と乳酸の関係について、 様々なことがわかってきています。体内に乳酸を投与しても疲労状態を起こすことができない
風邪の菌を投与されれば、人は風邪を引きます。また、疲労の原因となる疲労物質を投与されれば、人は疲労を感じます。 しかし、乳酸を投与しても疲労を感じることはありません。
あるラットを使った研究において、 疲弊したラットの乳酸を投与されたラットは、 乳酸投与後も何事もなかったように運動し続けることができることがわかっています。
その他様々な研究を通じて、乳酸は疲労物質にはなりえない、と結論づけられています。
ただし、運動によって乳酸が増加するのは事実です。
この増加した乳酸は臨時エネルギーとして使われます。
乳酸に関する正しい知識
- 運動によって乳酸は増加する
- 増加した乳酸は身体のエネルギーとして利用される
- 乳酸の増加は非常に一過性のもので、何もしなくても1時間で元に戻る
- 乳酸は筋肉だけでなく、脳においても非常に重要なエネルギーである
疲労回復にクエン酸は効果あり?
クエン酸の疲労回復効果を謳う場合、 「クエン酸が乳酸の分解、除去に効果がある」というのが大前提となっていました。しかし、この前提が崩れた現在、クエン酸は疲労回復に効果がないのでしょうか。
乳酸とは関係なく、クエン酸は疲労を回復する
身体疲労時のクエン酸とLカルニチン投与による疲労回復効果を行った研究において、 2,700mg/日のクエン酸と、1,000mg/日のLカルニチン、およびプラセボを投与したところ、 クエン酸を与えられたグループは、 運動前および運動後における生理的ストレス、肉体疲労を軽減することがわかりました。クエン酸が運動前のストレス減少、運動後の肉体疲労の軽減に効果があったのは、 運動やストレスによって供給低下が起こったATP(身体のエネルギーのようなもの)の産出を増加するためではないかと推測されています。
クエン酸が疲労回復に効果がある、というのは正しいものの、 それはクエン酸が乳酸を素早く分解・除去するからではなく、 ATP(身体のエネルギー)の産出を増加するためです。
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