セロトニンと疲労
疲労の原因の一つにセロトニンの減少が挙げられます。セロトニンと疲労の関係は未だ完全に解明されていないものの、大きく3つの説がありました。
- セロトニンの「増加」が疲労に関係あるとする説
- セロトニンの「減少」が疲労に関係あるとする説
- セロトニンと疲労には「一切関係がない」とする説
ここでは、セトロニンと疲労について、 セロトニンとは、セロトニンがなぜ疲労物質として誤解されたのか、 セロトニンの疲労および脳への影響、セロトニンを増や方法などについて紹介しています。
セロトニンとは
トリプトファンから作られる
セロトニンとは、必須アミノ酸であるトリプトファンを元に、体内で作られる神経伝達物質です。トリプトファンはアシカやヘラジカのお肉に最もよく含まれるものの、日本ではなかなか手に入れることはできません。
手軽に入手可能で、トリプトファンを多く含む食品は乳製品(卵、チーズ、ヨーグルト)、大豆食品(豆腐、豆乳)、魚、肉、ナッツ類です。
肉は牛豚鳥の種類は問わないものの、赤身が多い品種および部位に多く含まれ、 魚は赤身白身を問わずトリプトファンを多く摂取できます。
乳製品 | 大豆食品 | ||
卵 | 211mg | 豆腐 | 98mg |
牛乳 | 40mg | 豆乳 | 52mg |
肉 | 魚 | ||
牛 | 220mg | いわし | 109mg |
豚 | 280mg | さんま | 140mg |
食品100gあたり
脳内のセロトニンは脳内でしか作れない
理由は脳と血液の栄養のやりとりを行う血液脳関門という場所が極めて狭く、 セロトニンはここを通過することはできないからです。しかし、セロトニンの前駆体であるトリプトファンはここを通過することができます。
そのため、脳の内部で使用されるセロトニンは、 トリプトファンとして脳に届けられ、脳の内部でセロトニンに合成される必要があります。
セロトニンは幸福感の維持に貢献
セロトニンは不安を取り除き、気分の低下を防ぎ、より建設的になり、攻撃性が減少するなどの効果があります。この精神面での安定の維持に貢献することから「幸福ホルモン」と呼ばれます。
過剰摂取により幸福感が増すわけではありませんが、不足すると精神の安定を維持できなくなります。
セロトニン不足はうつ病の原因に
セロトニンの減少はうつ病の原因になることはよく知られています。うつ病以外にも精神に関わる疾患になりやすく、本人の意思と無関係に不快感や不安感を生じさせ、 ひどい場合には自殺行動にまで及ぶ場合もあります。
そのため、うつ病の治療にはセロトニンを増加させる(※厳密には異なりますがここでは省略)SSRIなどの薬が使われます。
セロトニンの減少が疲労に影響する
セロトニンと疲労の関係は未だ完全に解明されていないものの、 現在ではセロトニンの減少が疲労の原因、あるいは悪影響を与えるとする理論が有力です。中枢性疲労仮説に疑問
エリックA・ニューズホームとエヴァ・ブロムストランドらは、 運動によりトリプトファン濃度が増加することとトリプトファンが脳内でセロトニンに合成されるという2つの事実から、 「セロトニンの増加が疲労につながる可能性がある」と考えました。しかしトリプトファンはセロトニン以外にも様々な物質に変化することや、 そもそも疲労によってセロトニンは増えないといういくつかの検証結果から、 最近では、提唱者も含め疲労のセロトニン増加原因説に疑問が投げかけられています。
疲労患者はセロトニンが不足している
慢性疲労症候群患者において、脳前頭部でのセロトニン生合成の低下が見られること、および、 SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)を投与すると、約半数の患者に疲労改善効果が見らることから、 セロトニンの増加が疲労回復に効果があるとされています。セロトニンの増加で意欲が増す
セロトニンを増加させると積極的な気分ややる気を引き起こすこと、セロトニンの低下が無気力、無関心などの疲労症状が見られることから、
セロトニンの減少は疲労の原因となり、セロトニンの増加は疲労回復に効果があるとする説が最近では有力となっています。
セロトニンを増やす11の方法
疲労の回復、疲れにくい身体を作るにはセロトニンを増やすことが大事です。このセロトニンを増やすには、様々な方法があります。
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有酸素運動
運動はセロトニンを増加させ、精神疲労を回復する効果があります。この運動には、有酸素運動以外に、自動運動や反射運動によってもセロトニンが増加することが明らかになっています。
運動が脳内セロトニンを増加させるのは主に2つのメカニズムによると考えられ、 一つは運動によって脳内のセロトニン放出の頻度と速度が増加することと、 もう一つは運動はセロトニンの前駆体である脳内トリプトファンの産出を増加させることによるものです。
運動による疲労回復効果については、なぜ運動で疲労が回復するのかをご参照下さい。
自動運動、反射運動
この自動運動、反射運動と言われる繰り返し運動をすることによって、セロトニンが増加します。
激しいトレーニングや運動は、脳を通じて筋肉に命令を送り、筋肉を動かすのですが、 自動運動は中枢パターン発生器の機能により、脳を介さず脊髄から命令が下されます。
この中枢パターン発生器の応答回数に応じて、セロトニンが増加する、といういくつかの研究があります。
これら中枢パターン発生器が働く運動は、 歩行、遊泳、咀嚼(ガムを噛むなど)、呼吸といった生存のために必要不可欠な「意識しない動き」です。
ただし、同じ遊泳であっても長時間の実施や、競泳のような激しい運動の場合、 自動運動にはならないため、適度に実施するのがポイントです。
ビタミンB
セロトニンはトリプトファンから体内で合成されますが、 この合成にはビタミンB1、B3、B6、B9などが必要になります。豚肉とマグロはビタミンB1,B3,B6を多く含んでおり、全ての成分を比較的簡単に摂取することができます。
ビタミンBの疲労回復効果、多く含む食品などについてはビタミンBの疲労回復効果とはをご参照下さい。
セントジョーンズワート
セントジョーンズワートは脳内のセロトニンの分解、再吸収を防ぐことにより、 自然なSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害剤)として働き、セロトニン濃度を増やします。
2008年、5489名のうつ病患者に対する結果から、セントジョーンズワートはフラセボ郡よりも明らかに優れ、 効果は他のうつ病治療薬と同等であり、副作用はSSRIと比較して半分以下であったと結論づけています。
セントジョーンズワート以外にセロトニン増加に効果のある漢方・ハーブについては、 ストレス解消に効く漢方・ハーブをご参照下さい。
太陽の光
昼間の自然な太陽光はセロトニンを増やします。いくつかの研究では、日中のセロトニン合成量と日光浴の時間に正の相関があるという結果があります。
また、紫外線はビタミンDを生合成し、このビタミンDがセロトニン合成を助けます。
ただし、紫外線は皮膚に悪影響があるため、浴びすぎには注意が必要です。
必要なビタミンD量は、週に2回、5分から30分の日光浴で十分とされています。 太陽の光による疲労回復効果については、太陽の光と疲労をご参照下さい。
ストレスを避ける
ストレスはセロトニンを減少させます。そして、長期に渡ってストレスを蓄積すると、基本分泌量が少なくなるばかりでなく、セロトニンの枯渇を招く恐れがあります。
ストレスの元となる原因がある場合、ストレスを解消するだけでなく、避ける方法を考えるほうが効果的です。 精神的ストレスやその対処法については、精神的ストレスと疲労をご参照下さい。
幸福な思い出
幸せな記憶を思い出すことでセロトニンが増加します。幸せな記憶の追体験は2つの効果があり、1つは精神の幸福がセロトニンの生産を増加させること、 もう1つは嫌な負のストレスを忘れさせてくれることにより、セロトニンの減少を抑えてくれることです。
自分ひとりでできない場合には、写真やビデオ、友人などが手助けとなってくれるかもしれません。
マッサージ
マッサージによってコルチゾールが減少し、セロトニンおよびドーパミンが増加します。2004年にアメリカで発表されたある研究では、簡単なマッサージによりコルチゾールが31%減少し、ドーパミンとセロトニンがそれぞれ31%、28%増加しました。
他の実験では、15分のマッサージチェアーと20分のマッサージセラピーの効果が検証され、ここでもセロトニンが軒並み増加しました。
また他の研究でも、うつ病患者の女性が4ヶ月間週2回のマッサージを受けたところ、セロトニン濃度が30%増加したことが確認されています。
これらの研究はマッサージがセロトニンを増加させるだけでなく、ストレスを低下(コルチゾールの減少)させる効果があるとしています。 ストレス性のホルモンについては、副腎疲労をご参照下さい。
カフェインを避ける
カフェインの摂取により、セロトニン受容体が26~30%増加させる、とする研究があります。この結果はセロトニンの産出量が増えるのではなく、セロトニンの機能および活性の低下を示唆しています。
つまり、カフェインの摂取によりセロトニンが減少する、ということです。
原因はカフェインがビタミンBなどセロトニンの合成に必要な栄養を体外に放出させるためではないか、と推測されています。
カフェインはコーヒーだけでなく、栄養ドリンク(エナジードリンク)に多く含まれ、中にはコーヒーの数倍のカフェインが含まれるものも多数あります。
カフェインのより詳しい説明、疲労に対する効果については、カフェインは疲労の原因?をご参照下さい。
オメガ-3脂肪酸
アメリカで発表された魚の消費量とうつ病の関連性の研究において、 オメガ-3脂肪酸が気分安定剤として有望であり、うつ病患者の多くはオメガ-3脂肪酸が枯渇していました。
また、国家間の比較において、魚の消費量が多い国と少ない国を比較したところ、うつ病発症率に50倍の開きがありました。
これらのことから、オメガ-3脂肪酸の摂取によりセロトニンの増加に寄与するのではないか、と考えられています。
ただし、オメガ-3脂肪酸とセロトニンに相関関係はない、とする意見もあります。
ω-3脂肪酸は、α-リノレン酸(ALA)、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)などを示し、 総じて魚にはこれら3種類の栄養素が多く含まれます。
α-リノレン酸(ALA) | エイコサペンタエン酸(EPA) | ドコサヘキサエン酸(DHA) | |||
ゴマ | 24,000mg | すじこ | 2,100mg | あんこう | 3,600mg |
くるみ | 9,000mg | さば | 1,650mg | まぐろ | 3,200mg |
なたね油 | 7,500mg | いわし | 840mg | さば | 3,100mg |
食品100gあたり
ダークチョコレート
理由はポリフェノールの一種であるレスベラトロールがセロトニンの産出を増加させるからです。
ある実験において、レスベラトロールを経口摂取したマウスは脳内セロトニン濃度、ノルアドレナリン濃度が優位に増加しました。
ダークチョコレートは国によって定義は異なるものの、日本ではミルク(乳製品)が入らない、カカオマスが40%以上のチョコレートを指し、ビターチョコレート、ブラックチョコレートなどとも呼ばれます。
成分表示を参考に、カカオマス含有量が多いチョコレートを選ぶと、レスベラトロールが多く含まれます。
また、レスベラトロールはダークチョコレート以外に、ブドウの皮などに多く含まれます。
チョコレートの疲労回復効果については、チョコレートで疲労回復?をご参照下さい。
レスベラトロールが多く含まれる食品 | ||||
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