副腎疲労が疲労の原因
副腎疲労とは、1990年代に米国の医師ジェームズ・L・ウイルソンによって提唱された概念で、 副腎の機能が低下した結果、疲労や倦怠感をはじめ様々な症状が出る病気です。副腎は様々なホルモンを分泌し、ホルモンを通じて身体の各器官に命令を出しますが、 副腎が疲弊し機能が低下すると、このホルモン分泌に弊害が起こり、 倦怠感や無気力感などの疲労症状が出ます。
ただし、副腎疲労は医学的にはまだ完全に証明されておらず、 副腎不全やアジソン病と同じではないか、と副腎疲労に異を唱える医者、研究者も存在します。
ここでは、疲労の観点から副腎疲労について紹介しています。
副腎の機能と疲労
副腎にはエネルギー代謝、血糖調整など生命維持に関する様々な役割があります。これらの役割を実行するため各臓器へ指示を出すのですが、 この指示を出す手段として、副腎が作り出す副腎皮質ホルモンを利用しています。
その副腎皮質ホルモンの中でも、アドレナリン、ノルアドレナリン、コルチゾールが疲労と大きく関係しています。
疲労に関係する副腎皮質ホルモン
|
|
|
アドレナリン
チロシンを原料として、ドーパミンから作られます。(チロシン → ドーパミン → アドレナリン)アドレナリンは危機、不安、恐怖、怒りの感情によって分泌され、 それら感情に身体が対応出来るよう、各臓器に指示を出します。
具体的には、血糖値を上昇させたり、心拍数や血圧を上げて血流を良くしたり、 痛覚を麻痺させるなどです。 これらストレスに対抗・反応できる身体状態を作り出すホルモンです。
ノルアドレナリン
ノルアドレナリンはアドレナリンから作られます。危機、不安、恐怖、怒りを感じた時に分泌されるのはアドレナリンと同じであるものの、 アドレナリンが各臓器に対して働きかけるのに対して、 ノルアドレナリンはセロトニンなどと同様、神経伝達物質として脳で作用します。
具体的には、上記ストレスに対抗できるよう、集中力、判断力、やる気、緊張などを高めます。
そのため、ノルアドレナリンの分泌量が低下すると、無気力、無関心、うつ病などの症状を引き起こします。 うつ病の治療薬として、ノルアドレナリンの量を増やす抗うつ剤が利用されるのはこのためです。
コルチゾール
アドレナリン、ノルアドレナリン同様、 ストレスにさらされることにより分泌され、各臓器に働きかけるとともに、 各ホルモンの分泌バランスを調整します。具体的にはアドレナリン、ノルアドレナリン、コルチゾールは視床下部にあるCRH(副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン)の命令を受けてホルモン分泌を行いますが(※それぞれ経路は異なる)、 コルチゾールが増えるとこのCRHの分泌が抑えられるため、アドレナリン、ノルアドレナリン、コルチゾールの分泌が抑えられます。
また、コルチゾールの最大の特徴は、アドレナリン、ノルアドレナリンが一過性であるのに対して、 コルチゾールは蓄積していくため、正常な値に戻るのに長い時間を要することです。 そのため、ストレスを与えられていない状態でもコルチゾールレベルはなかなか下がらないため、 慢性的にストレスを与えられると、どんどん上昇し、副腎が疲弊してしまいます。
過剰なストレスによりコルチゾールが多量に分泌された場合、 脳の海馬を萎縮させたり、難病指定されているクッシング症候群を発症したり、疲労症状が出ます。
また、コルチゾール産出量が少なくなり過ぎても、エネルギーを作れず免疫力が低下するため疲労症状が出たり、 低血糖状態が続くため脳がエネルギーとして利用できるブドウ糖が少なくなり、 集中力低下、思考困難、記憶力低下などの症状が出やすくなります。
副腎とコルチゾール産出量の関係については以下「副腎疲労とは」をご参照下さい。
副腎疲労とは
副腎疲労はストレスを受けてからその副腎の活動の経過に応じて、 広義の副腎疲労と狭義の副腎疲労の2つの意味があります。また人によっては、「警告反応期(ショック相/反ショック相)」、「抵抗期」、「疲憊期」の3段階(4段階)に分ける場合もあります。
狭義の副腎疲労と広義の副腎疲労
広義の副腎疲労 | ストレスに抵抗するため、副腎が常に活性化している状態から疲弊するまでを含めた状態です。 抵抗期にはアドレナリン、ノルアドレナリン、コルチゾールなど副腎皮質ホルモンの分泌量が正常値より大幅に上昇します。 この状態が長期間続くと、副腎が完全に疲労困憊し、狭義の副腎疲労となります。 ※警告反応期(ショック相、半ショック相)を含めて、副腎疲労という場合や、疲憊期後の副腎のクラッシュ状態を含めて副腎疲労という場合などもあります。 |
狭義の副腎疲労 | ストレスなどにより副腎が完全に疲弊した結果、副腎の機能が著しく低下した状態です。 そのため、抵抗期とは反対に、 アドレナリン、ノルアドレナリン、コルチゾールなど副腎皮質ホルモンの分泌量が正常値より大幅に減少します。 |
副腎疲労の症状
副腎疲労症状の大きな特徴は極度の疲労です。副腎疲労に悩む人の多くは、一見健康に見えるものの、極度の疲労(身体疲労、精神疲労、脳疲労の全て)に悩まされています。
また、副腎皮質ホルモンは上記以外にも存在し、様々な役割を担っているため、疲労以外の症状も出ます。
ただし、感染症などの突発性の場合を除き、 抵抗期には副腎皮質ホルモンの分泌量が正常値より大幅に上昇し、 疲憊期には副腎皮質ホルモンの分泌量が正常値より大幅に減少するため、 抵抗期と疲憊期では逆の症状が出ることがあります。
(例:副腎機能が低下すると、体重が減少しますが、疲弊前は体重が増加するなど)
副腎疲労の症状
疲労症状 | 疲労以外の症状 |
|
|
より詳しい副腎疲労の症状については、 副腎疲労の症状をご参照下さい。
コーヒーを好む
副腎疲労になると、アドレナリンやノルアドレナリン、コルチゾールが分泌量が極端に減少するため、 やる気や集中力、判断力が低下します。一方、ほとんどの人は起床後、なんらかの用事や雑務に追われ、それらをこなすのにやる気を必要とします。
この不均衡を朝のコーヒー(カフェイン)に頼ることで、 アドレナリンやコルチゾールを産出し、やる気を出そうと試みていることが多いようです。
そのため、やる気をコーヒーに依存している場合、副腎疲労の可能性があります。
コーヒーによるやる気の増加については、カフェインは疲労の原因?をご参照下さい。
塩分を好む
副腎は水分とナトリウム、カリウムなどのバランスをコントロールする役割を持つ臓器です。そのため、副腎疲労により副腎が疲弊すると、ナトリウムとカリウムのバランスが崩れ、 ナトリウム不足、カリウム過多の現象が起こります。
その結果、体内で塩分が不足するようになり、体が塩分を欲します。
また、塩水の摂取は副腎疲労の回復にも良いとされています。
その他、副腎疲労による食べ物の嗜好の変化については、 副腎疲労と食の変化(塩・甘味・コーヒー)をご参照下さい。
副腎疲労の原因
副腎疲労の原因となるものは、未だ完全に明確になっていないものの、 慢性的に副腎皮質ホルモンの分泌を促すものと考えられています。慢性的に副腎皮質ホルモンが分泌された結果、副腎が疲弊し、機能に弊害が起こります。
副腎疲労の原因
|
|
ストレス
ストレスは副腎皮質ホルモンの分泌を活発にする最大の原因です。慢性的なストレスにさらされた場合、このホルモンが常時高い濃度で分泌され続けるため、 働き過ぎた副腎の機能が低下し、ホルモンを分泌できなくなります。
仕事でのストレス、人間関係、経済的な不安などは長期ストレスになりがちです。
ストレスによる疲労とその対処法は精神的ストレスと疲労解消法をご参照下さい。
タバコ
タバコは含まれるニコチンは副腎皮質を刺激し、アドレナリンとノルアドレナリンの分泌を促します。特にストレス時に吸うことが多い、また、ほとんどの人は慢性的にタバコを吸うため、 通常の人よりも常に多量のアドレナリンとノルアドレナリンを分泌し続けてしまいます。
コーヒー
コーヒーに含まれるカフェインはコルチゾールとアドレナリンの分泌を促します。 また、タバコ同様、常習性があり、徹夜の仕事や勉強とストレスの多い環境で好んで飲まれます。コーヒーを飲んだ後のコルチゾールの増加は、急性ストレスを経験した時と同様であることが分かっています。
その他、カフェインの疲労に対する影響については、カフェインは疲労の原因?をご参照ください。
その他
慢性的なストレスや生活習慣以外に、感染症、アレルギー、他の疾患(気管支炎、インフルエンザ等)が原因で副腎疲労になることがあります。副腎疲労の回復方法
副腎疲労は病院で診断、検査してもらうことが最も安心かつ確実です。病院には唾液中コルチゾール検査、瞳孔検査、血圧チェックなど副腎疲労かどうかを診断する各種検査方法が用意されています。
ただし、
- 副腎疲労の存在を知らない場合が多々あること
- 他の病気と誤診されやすいこと
特に極度の疲労症状が出る慢性疲労症候群や甲状腺機能低下症も副腎疲労と症状が非常に似ています。
その他、疲労を伴う病気については、疲労症状を伴う病気一覧をご参照下さい。
ご自身でできる副腎疲労の回復方法
ご自身でできる副腎疲労の回復方法・対策は以下の通りです。
副腎疲労回復法
|
|
ストレスを回避する
ストレスに対する対処法には「問題解決」、「環境変化」、「思考停止」など、 様々なスキルが存在します。これらスキルとご自身の実情に合わせて、ストレスに対処することで、 副腎が疲労する原因を断つことが重要です。
タバコ、コーヒーをやめる
タバコやコーヒーはアドレナリン、ノルアドレナリン、コルチゾールの分泌を促す原因となります。ビタミンB、ビタミンCを補給する
ビタミンCは副腎髄質に存在するノルアドレナリンの合成に必要な補因子であり、かつ、アドレナリンの合成も助けます。 コルチゾールの生産が低下している多くの人がビタミンCが欠乏していることが多く、ビタミンCは副腎疲労の回復に有益と考えられています。
しかし、ビタミンCの摂取量には注意が必要です。
高容量ビタミンC摂取療法(通常の成人1日摂取量100mgを超えて、3,000~10,000mg以上を摂取すること)が健康に良いとされていますが、 副腎疲労患者が高容量ビタミンCを摂取することについては注意が必要です。
高容量ビタミンCが副腎疲労に良いと主張する医師がいる一方、 高容量ビタミンCはミネラルの不均衡を起こしたり、 副腎疲労患者によってはビタミンC不耐症になる患者が存在すると主張する医師もおり、 副腎疲労患者の高容量ビタミンC摂取については、まだ完全な結論が出ていません。
もしも高容量ビタミンCの摂取をお考えの場合、必ず副腎疲労の専門医にご相談下さい。
(ビタミンC不耐症などの食物不耐症については、食物不耐症をご参照下さい。)
また、ビタミンBの多くは副腎のホルモン生産をサポートします。
特にビタミンB5(パントテン酸)の欠乏は副腎そのものを縮小させてしまいます。
その他ビタミンBやビタミンCの疲労回復効果については、ビタミンBで疲労回復、ビタミンCで疲労回復をご参照下さい。
マグネシウムを補給する
また、副腎疲労の原因であるストレスはマグネシウムをより多く消費します。 マグネシウムには、リラックス効果や、症状の一つである筋肉の痙攣を緩和してくれる効果があります。
運動する
副腎疲労の症状が出ている場合、極度の疲労から運動そのものが非常に困難な場合がありますが、 医師に相談し、適量の運動を実施することで、副腎疲労のいくつかの症状を緩和できます。ただし、副腎疲労の症状として、筋肉がつっている場合や身体の痛みが出ている場合、 その他疾患を誘発することになるため、無理は禁物です。
副腎疲労と運動については、副腎疲労と運動をご参照下さい。
塩水を飲む
午前、午後、両方など、人によって飲むタイミングはそれぞれですが、 小さじ1/8~1/4程度の塩を200mlの水に溶かして飲むと、やる気が出たり、その日を生きる活力が続きます。
副腎疲労は医学的には認められていない?
医療研究者の中には、いくつかの理由により副腎疲労を認めていない人もいます。反面、多くの病院では、副腎疲労が存在することを認めています。
副腎疲労が通常医療として認められていない、いくつかの反対意見は以下の通りです。
- 副腎疲労の問診が多くの疲労を伴う疾患に当てはまる
- 血液や唾液検査の中には科学的根拠を欠いているものがある
- 副腎不全の軽症型である
副腎疲労が疲労の原因 先頭へ |
関連ページ |
メニュー・目次一覧へ |