なぜ運動で疲労が回復するのか
運動は栄養、睡眠と並んで疲労の3大回復方法の一つです。運動は身体疲労は元より、 脳疲労(認知機能低下)、うつ病などの精神疲労、 がん、腎臓疾患などの病的疲労の解消にも効果があります。
疲労は「身体のエネルギーが枯渇した状態」と表現されますが、 運動は身体のエネルギー総量を20%アップさせると言われ、疲れにくい身体を作ります。
ここでは疲労回復の観点から、 なぜ運動が疲労解消に役立つのか、 どのような運動が疲労解消に効果的かについて、 紹介しています。
個別の疲労回復方法については、 疲労症状の種類と回復方法や 疲労の原因を探る~生活・症状~をご参照下さい。
運動による疲労回復の研究
運動による疲労回復の実験や研究は世界中で行われており、 多くの研究結果により運動は「身体疲労回復」、「脳疲労回復」、「精神疲労回復」、「病的疲労回復」に効果があるとの結論が出ています。身体疲労の回復
スイスの医療ジャーナルによると、 中強度の運動(テンポの速い徒歩レベル)、低強度の運動(のんびり散歩レベル)、運動なしの対象群を6週間に渡って観察したところ、中強度の運動グループと低強度の運動グループは実験の終了後、エネルギーレベルが約20%増加しました。また、中強度の運動グループは49%、低強度の運動グループは65%、疲労感が回復しました。
認知機能(脳疲労)の回復、低下の防止
カンザス大学で行われた高齢化による認知機能低下を探る研究によると、 65歳以上の女性に対して散歩の歩数と認知減少の関係を調査したところ、 6年後には、散歩の歩数が多い人ほど認知力の低下が少なかった、と報告しています。また、ノースカロライナ大学やUCLA大学の研究によると、 物理的な活動(=運動)への参加と認知能力との間に正の相関があるとしており、 運動は脳への血流を増加させ、脳容積、ニューロンの形成を増加する効果があるとしています。
精神疲労を回復
運動はセロトニンやエンドルフィンを増やし、免疫力を低下させる化学物質を排除することから、 うつ病やその他疲労を伴う精神疾患にも効果があるとされています。その他病気の疲労を軽減
コクラン(医療情報や研究成果を世界発信している独立組織)によると、 有酸素運動はがん患者やがん治療に関連した疲労を軽減するとしています。 しかし、同じ研究において、筋力トレーニングなどの無酸素運動では疲労はほとんど改善しませんでした。特にがん患者には重度の疲労が伴うため、運動による疲労改善は有益な変化になると考えられています。
ただし、がんの内容によっては病気や症状が悪化することもあるため、運動療法については医師の診断・指示が必要です。
また、運動はその他多くの病的疲労に効果があります。
一例を上げると、腎不全において腎性貧血を解消し、尿毒素の排出に役立ち、腎臓機能の低下による血行不良の解消に寄与してくれます。
その他、慢性疲労症候群の症状軽減の治療方法の一つである段階的運動療法が効果を上げており、 糖尿病にも運動は効果があります。
運動による疲労回復のメカニズム
運動によって疲労が回復するのは、運動によってもたらされる以下の効果によるものです。
運動による疲労回復効果
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体力、エネルギー産出量が増加する
疲労とは、心身のエネルギー枯渇状態です。運動はこの身体のエネルギーの総量を増やすことができます。
身体活動に必要なエネルギーのほとんどは、ミトコンドリアが産出するATP(アデノシン三リン酸)によって作りだされます。 言い換えるとミトコンドリアが産出するこのATPがないと、身体活動に必要なエネルギーを得ることはできません。
運動は、このエネルギー(ATP)を作り出すミトコンドリアの総数を増やすことができるため、 より疲れにくい身体を作ることができます。
酸素供給量が増加する
運動によって平常時の酸素供給量が増加します。これは有酸素運動によって心臓の筋肉(心筋)が発達すること、 平常時の心拍数が減少すること、および毛細血管数が増加するためです。
心臓の筋肉発達と心拍数減少により、心臓での酸素消費量が減少するため、 1回の心拍でより多くの酸素を他の器官に供給できるようになります。
また、毛細血管が発達するため、身体の隅々まで酸素を供給することができるようになります。
酸素が不足すると各器官は十分に機能できず、またミトコンドリアはエネルギーを作り出すことはできません。
酸素不足は疲労の原因であり、より多くの酸素供給によって疲労が回復し、疲れにくい身体を作ります。
エンドルフィンを産出する
エンドルフィンは痛みの減少、身体の鎮痛剤として機能する以外に、 多幸感をもたらし気分をリラックスさせてくれます。 運動はこのエンドルフィンを産出してくれます。リラックスとストレスは「逆抑止の原理」により共存することができません。
運動によってエンドルフィンを産出しリラックスすることは、逆抑止の原理によりストレスの発生を抑制、減少させます。
その結果、ストレスから生じる疲労感を軽減する効果があります。
ただし、ランナーズハイなどに代表されるように、エンドルフィンは疲労を一時的にごまかしているに過ぎず、 残念ながら疲労そのものを回復する効果はありません。
セロトニンが増加する
セロトニンの減少は無気力ややる気の喪失といった精神疲労に関連し、 うつ病に代表される精神疾患の原因の一つです。 運動はこのセロトニンを増加させ精神疲労を回復する効果があります。有酸素運動以外に、自動運動や反射運動によってもセロトニンが増加することが明らかになっています。
運動が脳内セロトニンを増加させるのは主に2つのメカニズムによると考えられ、 一つは運動によって脳内のセロトニン放出の頻度と速度が増加することと、 もう一つは運動はセロトニンの前駆体である脳内トリプトファンの産出を増加させることによるものです。
セロトニンのより詳しい内容はセロトニンと疲労をご参照下さい。
ストレス関連ホルモンが減少する
運動はストレス関連ホルモンを減少させます。運動に対する嫌悪感や運動そのものが肉体的なストレスとなり、一時的にアドレナリンやコルチゾールを増加させることがあるものの、 定期的な運動によってストレスが解消することにより、コルチゾールレベルを低下させます。
コルチゾールによる疲労については副腎疲労をご参照下さい。
免疫力がアップする
運動によって免疫力がアップします。運動による汗や尿の排出増加は、それだけ多くの細菌を体外に排出することを意味します。 この排出には癌の原因となる発がん性物質なども含むため、ガン予防に運動は有益とされています。
また、運動により血液循環が良くなると、ウィルスの抗体や白血球がより早く体内を循環できるようになるため、 素早く病気に対応できるようになります。
その他、運動による体温の一時的な増加は、細菌の増殖防止に役立ちます。 これは風邪を引くと熱がでるのと同じ仕組で、細菌やウィルスを殺す役目があります。
運動によって免疫力がアップすることは病気の予防につながるため、 病的疲労を防止することに役立ちます。
ただし、過度の運動は逆に免疫力の低下につながることもあり注意が必要です。
成長ホルモン分泌を促す
成長ホルモンは大人になっても分泌され、若い肉体を保つ効果がある疲労解消にとっては非常に重要なホルモンです。 成長ホルモンの分泌に必要な運動は、有酸素運動、無酸素運動の両方で可能です。特に成長ホルモンは40代以降、急激に減少していくため、 肌の老化やメタボ体型になっている人は成長ホルモンの減少や男性の場合、テストステロンの減少が原因かもしれません。
成長ホルモンの増やし方や疲労回復効果については、成長ホルモンで疲労回復をご参照下さい。
また、テストステロンの増やし方については、テストステロンを増やす24の方法をご参照下さい。
その他効果
運動は肥満を解消し、熟睡を促し、食欲を増加してくれます。体重の増加はより多くのエネルギーを必要とするため、 疲れやすくなりますが、 運動はこれら生活習慣病を予防してくれます。
その他、運動は熟睡を促し、一部の睡眠障害を改善する効果もあります。
運動で疲労を回復する3つの基準
運動で疲労を回復するには以下の3つの基準を満たすことが重要です。
疲労回復のための運動
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有酸素運動
運動は、大別すると有酸素運動と無酸素運動がありますが、 疲労回復に効果があるのは総じて有酸素運動であることが多くの研究で明らかになっています。その他、整理運動、反射運動、筋力トレーニングなども疲労回復に効果がありますが、 汎用的により多くの疲労回復に効果があるとされるのは有酸素運動です。
定期的な運動、適度な運動
定期的な運動とは、1週間に複数回運動を実施することです。回数は推奨する団体、機関、研究者、対象者の疲労度合い、年齢によって異なります。
正確な統計を取ることは難しいものの、 概ね1回30~60分、週に3~5回、3ヶ月以上の継続で大きな効果が現れるとする文献、研究が多く見られます。
これは、心筋や毛細血管、ミトコンドリアといった身体能力の向上にはある程度の月数が必要なためです。
また、運動開始時期は少ない負荷であっても運動そのものに対するストレスも大きいため、 エンドルフィンやセロトニンといった神経伝達物質が一時的に減少する可能性も否めません。
そのため、最初は軽い負荷のものからはじめ、次第に強度を上げていくことが疲労回復には効果的です。
筋力トレーニングでは疲労は回復しない?
筋力トレーニングでも疲労しにくい体を作ることができます。普段あまり運動をしない人の筋肉量は、 加齢とともに減少していき、 筋肉量が減りすぎると、 すぐに疲れやすい体質となり、 ひどくなると日常生活に支障をきたす様になります。(病名:サルコペニア)
また、筋肉トレーニングには、 成長ホルモンの分泌増加による疲労回復、 また、トレーニングによって実際に筋肉量が増えると、 エネルギー量の増加、血流の改善、認知機能の向上など、 身体疲労、脳疲労が起きにくい体になります。
筋力トレーニングによる健康効果については、 筋力トレーニングの健康効果をご参照下さい。
疲労別運動
上記は大むね全ての疲労回復に役立つものの、疲労症状・状態ごとに必要な運動を紹介しています。脳疲労
脳疲労のうち、「今日だけ」、「あと一息」というタイプの脳疲労には、 運動強度はそれほど重要ではありません。運動を継続することで「体のだるさが取れる」「脳がスッキリする」瞬間があります。
これは軽いストレッチや有酸素運動だと概ね15分~30分程度です。 また運動の種類としては、ストレッチ、体操などの軽い運動、散歩、立って作業するなどでも効果があり、 素早く頭をスッキリさせたい場合には、運動強度が強いものほど即効性があります。
精神疲労
精神疲労は運動によるストレスとの兼ね合いが重要です。激しい運動から始めると、ストレスに対する抵抗から、逆に精神疲労を悪化させる場合があるためです。
精神疲労は最初は散歩程度の軽い運動からはじめ、 精神疲労回復効果のより高い「緑の多い場所」、「太陽の光を浴びる場所」などが効果的です。
運動の種類としては、有酸素運動以外に、 咀嚼(口を動かす)などの自動運動や反射運動も効果的です。
精神疲労に効果的な運動やセロトニンの増やし方については、 セロトニンを増やして疲労回復をご参照下さい。
不眠症
不眠症解消で重要な運動の視点は「時刻」で、運動の種類は特に問われません。人間の体は眠る時には体温が少し下がり、それが入眠のシグナルとなるのですが、 運動はこの体温を下げる役割に一役買ってくれます。
運動によって一度体温を上げると、それは3~5時間程度続きます。
そのため、就寝時間が22時なら、17時~19時頃に運動を終えれば体温の変化が睡眠をサポートしてくれます。
また睡眠障害である周期性四肢運動障害、 むずむず脚症候群(下肢静止不能症候群)など足のけいれん、しびれなどにも運動は効果があります。
疲労回復の運動例
適度な負荷の有酸素運動は概ね疲労回復に効果があるとされています。そのため、運動の種類はほとんど問われません。
よく例としてあげられるものは
- ウォーキング
- ストレッチ
- ヨガ
- ジョギング
- エアロビクス
- サイクリング
- 太極拳、気功
どのような運動であれ、実施することに心理的負担が少ないもの、 好きなことをするのが疲労回復には最も適しています。
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