慢性疲労症候群の回復方法【段階的運動療法】

慢性疲労症候群の回復方法【段階的運動療法】

慢性疲労症候群の回復方法【段階的運動療法】
慢性疲労症候群の回復方法の1つに「段階的運動療法(GET)」があります。

段階的運動療法は、理学療法士の指導のもと、 運動を通じて、患者が以前の日常生活を取り戻せることを目的としており、 慢性疲労症候群の回復方法として、大きな効果を上げている方法です。

ここでは、慢性疲労症候群、線維筋痛症の治療方法の1つである段階的運動療法について、 効果や具体的なプログラム内容を紹介しています。

段階的運動療法の目的

段階的運動療法とは、運動を通じて、患者が以前の日常生活を取り戻せる様、支援することです。

慢性疲労症候群、線維筋痛症患者は、その圧倒的疲労から、日常生活を送ることが困難になり、 「朝ベッドから起きれない」、「階段の昇り降りさえ苦痛」など、一日の大半をベッドの上で過ごしがちになってしまいます。

これは「疲労症状を新たに発生させない」という点では有益なものの、 運動不足や活動不足は「身体機能の低下」、「筋肉の弱体化」へとつながり、 結果として、慢性疲労症候群や線維筋痛症以外の新たな病気(心臓病、脳卒中、Ⅱ型糖尿病、サルコペニアなど)の原因となります。

段階的運動療法は、疲労を予防しつつ、慢性疲労症候群や線維筋痛症を治癒することで、以前の日常生活を取り戻せることを目的としています。

段階的運動療法の効果

2011年、イギリスで641人の慢性疲労症候群患者が参加した実験では、 4つのグループに別れ、それぞれ治療を行ったところ、 認知行動療法、または、段階的運動療法を施した群では、100名中41名が疲労が改善しました。

その他、ページング療法では100名中31名、他の治療法では100名中25名が改善し、認知行動療法と段階的運動療法が慢性疲労症候群の症状に最も効果的であると結論づけています。

また、認知行動療法と段階的運動療法では、およそ30%が完全に疲労が回復し、正常な範囲になった、と発表しています。

効果は理学療法士次第?

上記実験において、慢性疲労症候群の症状が改善しなかったグループを更に詳しく調べたところ、 改善しなかったグループは、「身体活動(運動)と負の相関があった」と結論づけています。

これは、運動すればするほど症状が悪化したことを意味しますが、 段階的運動療法では、このようなことは通常起こりえません(段階的運動療法は疲労度合を厳格に管理するため)。

そのため、段階的運動療法で効果がでない、あるいは、症状が悪化する原因の1つとして、 指導者(主に理学療法士)の運動プログラムの内容不備も原因と考えれらます。

段階的運動療法のエッセンス

段階的運動療法は、理学療法士の指導のもと、患者と一緒に目標を立て、 その目標に向かって柔軟に対応しながら「徐々に運動量を増やし、最終的に患者が自立すること」を目標としています。

段階的運動療法のエッセンス
  • 理学療法士(あるいはそれに準ずる知識のあるもの)がリードする
  • 運動は患者個人ごとに決められる
  • 運動は目標を持ち、計画、管理される
  • 運動は患者の状態に応じて、常に調整される
  • 最初は小さな負荷から始める
  • 運動不足とやり過ぎのバランスを取る
  • 自立を促す

慢性疲労症候群は「活動(運動)」によって疲労症状が増すため、 この疲労症状を起こさせない「調度良い活動」を専門家が計画・管理し、 調整しながら毎日行うことが段階的運動療法です。
詳しくは下記図「ボルグスケール(自覚による運動強度の評価)」をご参照下さい。

具体的なプログラム内容

段階的運動療法のプログラムは、医師や病院によって異なる場合もあるものの、 ここでは、世界で最も有名なPACEマニュアル(イギリス政府出資による「専門医療」、「認知行動療法」、「段階的運動療法」、「適用ページング療法」のマニュアル)の概要を紹介します。

PACEでは、セッションは大きく3つ(細かく15)に分けられ、 それぞれ50分(セッション1のみ90分)のカウンセリングと、 2週間の演習(セッション1~3は1週間)を要します。

セッション№ 概要 プログラム内容
1~3
(各1週間)
能力調査と治療計画の立案
  • 段階的運動療法についての教育
  • 身体能力調査
  • 目標設定
  • 身体活動記録
  • ストレッチの実証、演習
  • ベースとなる運動量の設定
  • など
4~14
(各2週間~)
運動による治療
  • 心拍数モニター
  • 運動記録の管理
  • 次セッションの計画
  • 目標の見直し
  • 挫折の防止・管理
  • 強化演習の追加
  • など
15 将来の準備
  • 今後の目標設定と計画
  • など

フェーズ1:セッション1~3

段階的運動療法について教えたり、目標設定、基準となる運動量の測定、ストレッチの演習などを行います。

弱体化する筋肉の減少を抑えるため、 最初の運動としてストレッチは特に有益と考えられており、 ストレッチ演習の基準となる可動範囲確認のため、 「椅子に座って右の肩を見れるか」、「左の肩を見れるか」などの確認を行い、 日々の運動計画を作成します。

また、フェーズ2以降に活用する有酸素運動の基準を作るため、「2分間の歩行試験」、「1分間の起立と着席回数」 などを測定します。

これら運動量調査の結果と 運動後の疲労感(自覚的運動強度、ボルグ)によって、 演習開始時の運動量が決定されます。

フェーズ2:セッション4~14

慢性疲労症候群の回復方法【段階的運動療法】
ストレッチから始まった運動と、運動後の疲労感(自覚的運動強度、ボルグ)を元に、徐々に活動量を増やします。
計画は2週間ごとに立てられ、有酸素運動も取り入れられます。

段階的運動療法では、 30分の運動で疲れが残り、次の運動ができないよりも、 5分の運動を毎日(=定期的)できる方が良いと考えられているため、 運動後の疲労感(自覚的運動強度、ボルグ)に焦点が当てられ、 「目標の見直し」、「挫折の予防・管理」、「演習の強化」に関わる教育が行われます。

また、 疲労度に影響を与える「睡眠」や、筋肉を弛緩させる「お風呂」に関わる教育なども行われます。

次セッションにおいて、 運動量を上げる場合、20%を限度とし(例:5分のウォーキング → 6分のウォーキング) また、慢性疲労症候群患者の多くは、週に何度か体調の良い日があるため、 目標の達成は1週間のうち、症状を悪化させることなく、5~6回以上達成できた場合を目安としています。

また、セッション13(22週目)以降、 缶や瓶などを使った筋力トレーニングや、 地元のジムへの参加、友人との散歩など、 社会への参加も取り入れられるようになります。

フェーズ3:セッション15

最終段階では、患者自らの独立を支援するため、 患者自身で継続する方法や、運動強度と疲労に対する客観的指標(自覚的運動強度、ボルグ)の調整方法などを教わります。

慢性疲労症候群は運動に対する恐怖がある

慢性疲労症候群患者は運動後、12時間以上、 ひどい場合には数日、数週間も以前より症状が悪化する場合があります。

一方、運動や活動を避けることは、さらなる体調不良や他の疾患の原因となり、 現在の症状の悪化を招きます。

このジレンマこそ、慢性疲労症候群患者に特有の「運動に対する恐怖」で、 この「恐怖の回避」が、運動を始める上で、最も重要と考えられています。

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運動不足が疲労の原因
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